年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「あのー。大輔の、モデルさん、ですよね? えっと……片桐さん?」
振り向くと、斜め後ろに自信なさげに私を見る咲さんが立っていた。今日はまだそんなに酔っていないのか、落ち着いた様子だ。
はい、と頷くと、良かった、と安心したように笑う。
隣いいですか、と訊かれたのでどうぞと促すと、私の右隣の席に座って、マスターにマティーニを頼んでいた。確か、定番だけどすごく強いカクテルだったはず。若い女の子のくせに随分と渋い注文をするものだ、と密かに驚く。
「まーた背伸びしたもん頼むなよ。今日は誰にも押し付けられないぞ」
「いいの。ちゃんと一人で飲みきるから」
マスターが苦笑いしながらカクテルグラスを手に取った。その手つきをぼんやり見ていると、咲さんが話しかけてきた。
「あの、こんなこと私が訊くのもどーかなあ、とは思うんですけど。大輔と何かあったんですか?」
「何か、って?」
「んー……喧嘩した、とか?」
喧嘩するほどの関係ですらない。そうなる前に離れた。
「どうして?」
「あいつが自分から本店に戻りたい、って言い出すなんて、よほどのことがあったのかなって。
ずっと元気ないし、理由なんて片桐さん関係しか思いつかなくて……」
咲さんの言葉が途中から耳に入らなかった。