年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~


「あのー。大輔の、モデルさん、ですよね? えっと……片桐さん?」


振り向くと、斜め後ろに自信なさげに私を見る咲さんが立っていた。今日はまだそんなに酔っていないのか、落ち着いた様子だ。

はい、と頷くと、良かった、と安心したように笑う。

隣いいですか、と訊かれたのでどうぞと促すと、私の右隣の席に座って、マスターにマティーニを頼んでいた。確か、定番だけどすごく強いカクテルだったはず。若い女の子のくせに随分と渋い注文をするものだ、と密かに驚く。

「まーた背伸びしたもん頼むなよ。今日は誰にも押し付けられないぞ」

「いいの。ちゃんと一人で飲みきるから」

マスターが苦笑いしながらカクテルグラスを手に取った。その手つきをぼんやり見ていると、咲さんが話しかけてきた。


「あの、こんなこと私が訊くのもどーかなあ、とは思うんですけど。大輔と何かあったんですか?」

「何か、って?」

「んー……喧嘩した、とか?」

喧嘩するほどの関係ですらない。そうなる前に離れた。

「どうして?」

「あいつが自分から本店に戻りたい、って言い出すなんて、よほどのことがあったのかなって。
ずっと元気ないし、理由なんて片桐さん関係しか思いつかなくて……」


咲さんの言葉が途中から耳に入らなかった。
< 218 / 462 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop