年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「本店に戻りたいってどういうこと? 大輔くん、もうあの店にいないの?」
思わず肩に掴みかかった私を、咲さんが驚いたように見返す。
「まだ移動にはなってませんけど。この夏くらいから、変わるかも、って」
咲さんが困ったようにちらっと肩に目をやった。私は我に返って、掴んだままだった手をどける。
「ノーブルができて、タケさんが移動するって決まった時に、絶対大輔は連れていく、って珍しく強硬に言い張ったんですよ。
多分、将来的にあの店は大輔に任せたいんでしょうね。一番可愛がってるし、実際あいつ、メキメキうまくなってるし。
だから、葉月が他のアシスタントと入れ替わることはあっても、あの二人が本店に戻って来ることはないんだろうなあ、って思ってて……だからみんな、ビックリしちゃって。
理由も詳しく教えてくれないし、本人普通にしてるつもりなんでしょうけど、空元気というか、変にテンション上げてる感じだし、見ててこっちがしんどいっていうか」
この前街で会った大輔くんは、いつも通りに見えた。こんなにグダグダ引きずっているのは、私だけだと思っていたのに。
「大輔と私、入社が一年違いなんですけど、わりとなんでも話せるというか、構えないで相談できちゃうんですよね。
今まで散々あいつの話も聞いてきたし、私の話もしてきたし。
お互い長いこと期待の持てない片想いをしてきたから、いろんな弱音も話してきました。だからようやく、あいつの片想いだけでも実りそう、って聞いて、悔しい反面私もすごく嬉しかったんですけど……」
「ちょっと待って。大輔くんが長いこと片想い、って、誰に?」
「もちろん、片桐さんに」