年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「でももう遅い……」
「相手が生きてるうちは遅いなんてことはないよ」
俯いていた顔を上げると、いつもとは種類の違う、どこか少し寂しげな表情のマスターと目が合った。
「俺はみんなに後悔してほしくないんだよ」
ふ、と笑って、マスターがまた咲さんの方に手を伸ばした。ふくれっ面のままだった頬っぺたをつまむ。
「お前もな。どれだけ背伸びしてもあいつには届かないんだったら、そろそろ身の丈のままぶつかってみたらどうだ?」
咲さんはむうっと唇を尖らせて、マスターの手をはねのける。無言のままマティーニのグラスに口をつけて、一口含んだ途端に顔を顰めた。
「マッズ……」
そう呟いてきゅっと唇を噛んだ。じっとグラスを見つめて、目を閉じてグラスに口をつけて、一気に煽る。
眉間にシワを寄せながら無理やり飲み込んでいる咲さんを、マスターが心配そうに見ているのが、なんだか印象的だった。