年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「感情ではなく状況に流されて結婚をした人間の意見として、参考までに聞き流してください」
そう言って、いつも通りの穏やかな笑みを私に向ける。
「……でも、大輔くんはもう私を求めないと思います」
「大嘘ですよ、そんなの。一度会って話せばすぐにわかるはずです。
……僕はどうしても大輔の味方をしてしまいますけど、あいつは将来有望ですよ。今は頼りなく感じるかもしれませんが、先物買いをしても後悔させません。近いうちに、必ず売り上げる美容師になる。ならせてみせます」
「咲さんが、辻井さんは大輔くんのことを特別に可愛がってる、って言ってましたけど、本当ですね」
「他の後輩より手をかけているのは事実です。本当はもう、スタイリストとしてお客様に入らせてもいいレベルにはなっているんですけど」
「なんでやらせてあげないんですか?」
「本店ならあれで通用しますけど、ノーブルに来るようなお客様はやっぱり目が肥えている。今のうちに基礎をしっかり確立させてやりたいんです。僕が抜けた後にあの店を引っ張っていくのは大輔ですから」
「抜ける、って。辞めるんですか?」
「いずれは。……そろそろ僕も、いろいろと動いていかなければいけないかな、と」