年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
当然のように出てきた話題に、パソコンを立ち上げて見積書を呼び出していた私は、ぎくっと手を止める。


「……なんでその話を?」

「平山がぽろっとねー。嬉しい反面残念みたいな、複雑なこと言ってたけど」

ああ、絵里ちゃん以外に伏兵がいたか。そんなに口が軽いはずじゃないのに。

「あの、まだ、完璧に決まった訳じゃないので。できればご内密に……」

「わかってるよー、平山も言った瞬間ヤバって顔して、必死で口止めしてきたもん」

竹田さんは安心してよ、とのんびり笑う。

「手塩にかけて育てた後輩だしねえ。昔はいっぱい怒鳴られてたのに、今じゃあ沙羽ちゃんが叱る立場になっちゃったね」

「懐かしいです。平山さんの怒り方、半端なく怖かった」

「でも沙羽ちゃん、一回も泣かなかったもんねー」


どれだけ厳しい言い方でも、平山さんの言うことはいつも正しかった。

泣くのは卑怯だと思ってその場では我慢したけど、その分こっそり一人で泣いたことを、懐かしく思い出す。


「明日香ちゃんもしっかりしてるけど、沙羽ちゃんと比べたらまだまだ。とっとと子供産んで、早く復帰してきてよ」

「気が早すぎますよ」


苦笑いでそう返して、パソコンに向かう。サンドイッチを早々に食べ終わった竹田さんも、また自分の仕事に戻っていた。
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