年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「お前、相変わらず片桐さんに対してだけ鋭いな」
笑い含みの辻井さんの声に、大輔くんが少し不機嫌な声で答える。
「沙羽さんにだけ、ってなんですか? 俺、結構ちゃんとお客さんのこと見てますよ」
「でも気付いてないこともある。恋愛関係に関しては鈍いよ、お前」
「……それってタケさんと綾川さんのこと言ってますか?」
大輔くんの答えに、しばらく沈黙が降りた。
声以外の様子が見えないのがもどかしいけど、なんとなく辻井さんが驚いているような気がする。
マスターがステアしたマティーニをグラスに注いだ。カウンターの向こうに差し出して、落ち着いた声で言う。
「武尊。灰」
「あ、すみません」
辻井さんは慌てて灰皿に手を伸ばしたようだ。
それからようやく、話を続け始めた。
「……気付いてたのか」
「俺がどれだけタケさんのこと見てたと思ってるんですか? さすがに気付きますよ。多分、咲さんも知ってます」
「咲はもしかしたら、と思ってたけど。お前は絶対わかってないと思ってた」
「気付いてもバカ正直に言えませんよ」
多分、辻井さんの不倫相手、のことだろう。大輔くんも咲さんも知ってるってことは、お客さんなんだろうか。
咲さん、そういうのも全部、知ってるんだ。