年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「そんなに大切な人を手に入れられるまであと一歩ってとこまで来たのに、お前はあっさり身を引くんだな」
カチン、と音がする。
一定の感覚でカチン、カチン、と音が響いて……考えながらジッポーを触るの、辻井さんの癖なのかな。
「……沙羽さんには絶対幸せになって欲しいんです。不安になったり泣いたりなんかして欲しくない」
カチン、カチン。音が続く。
「今の俺には木下さんに勝てそうなものはなにもない。
金もないし時間もないし、仕事だってスタイリストにもなれないで中途半端なまんま。死ぬほど頑張ったところで、家族を養えるようになるまでに、一体何年かかります?
今現在木下さんは全部クリアしてるのに、俺が追いつくまで待ってくれなんて口が裂けても言えなかった」
――こんなに真剣に、考えていてくれたなんて。
思いもしなかった。
「俺じゃ完全に力不足です。やっぱり、憧れて遠くでこっそり見てるくらいが俺には相応しいんですよ」
呟くような小さな声は、悔しさと同時に諦めが滲み出ているような気がした。