年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
カチン、と一度強い音がして、それきり止んだ。

しばらくまた、沈黙が降りる。


「……諦めきれんの?」


辻井さんが静かに言った。


「諦めます」


大輔くんも同じようなトーンで言う。


「じゃあなんでノーブルから離れたがる?」


「……」

「片桐さんの気配を感じるのが嫌なんだろ? 今だって会いたくてたまんないんじゃないのか?」

「……」

「お前と片桐さんの関係がどこまで進んだのかは知らないけど。手に入らないと思えば思うほど欲しくなるぞ。憧れの女神さまが生身の女だって気付かされて、また中坊の初恋に戻れるほどお前だって純情じゃないだろ?」



「……会いたいですよ」


無理やり絞り出されたような、大輔くんの掠れた声。


「会いたい。声が聞きたい。髪を撫でて、肌に触れて、めちゃくちゃになるまで抱き潰したい」


< 279 / 462 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop