年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
ドアが閉まる音がしたあと、マスターがひょい、と屈んで、新しいおしぼりを私に差し出した。


「もういいよ、出てきて。……大丈夫?」


気遣うような視線を向けてくる。
私の目からは、勝手に涙が溢れていた。


「……バレませんでした?」

「多分ね。声出てたらアウトだったけど」


ふっと笑って私の腕を掴んで、立ち上がるのを助けてくれる。
私はおしぼりを目に当てて、まぶたの上から抑えた。

「もしかして、その煙草……」

「そう、沙羽ちゃんが危ないからとっとと帰れの合図。一応決めといて良かったよ」

やっぱりそうだったか。えらく突然帰る流れになったなと思ったけど、それなら納得がいく。
それにしても、もうちょっと自然に流れを作ることはできなかったものか……。

「武尊は意外と不器用で鈍い。大輔のことからかえないよな」

楽しそうなマスターの表情に、一番強いのはこの人だ、と確信する。


「腹割って話すことはできなかったみたいだけど。大輔の本音は十分伝わった?」 

「はい」

「じゃあ、今度は沙羽ちゃんの番。きちんと本音を見つめ返して、後悔しないように選んで」


「……はい」

私もはっきりと、頷いた。
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