年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
マンションの前に横付けされた見慣れた車の助手席を開けると、シンプルなジャケットスタイルに身を包んだ祥裄が運転席からこちらを見ていた。いつもより気合の入った格好に、ちゃんとオシャレして、っていう私のお願いを守ってくれたんだな、と思った。

車に乗り込んで、しばらく無言で相手の言葉を探り合う。

先に口を開いたのは私の方。


「ねえ、祥裄。……私ね、」
「聞きたくないって言ってるだろうが」


また最後まで私の言葉を聞かず、遮ってくる。

私が無理にでも話を続けようと開きかけた口を、祥裄はすかさず手でふさいだ。

そしてなぜか、とても優しい笑顔を浮かべた。


「もうちょっとだけ、心の中にしまっておいてくれ。……行くぞ」


そう言って車のアクセルを踏み始める。

きっと、私の話なんてとっくに祥裄は気付いてる。
なのになんで、そんなふうに笑ってくれるんだろう。

きゅっと胸が締め付けられて、目の奥が熱くなる。我慢しようと唇を噛むと、それをちらりと横目で見た祥裄が、つん、と私の頬をつついた。


「そんな顔すんな。……笑っててくれよ」

「うん……」


涙を奥に引っ込めて、笑顔を作る。そんな私の頭をくしゃりと撫でて、また祥裄が、全部包み込むように笑ってくれた。
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