年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~

肩にタオルをかけると、楽しそうに笑っていた沙羽さんが、少し固い声で訊いた。

「浴衣のヘアセットって、そんなに難しいの？」
「いえ、全然難しくないです」

普通のアップより時間もかけないし、技術的には決して難しいものじゃない。今時自分でえらく凝ったアレンジを施している子だっていっぱいいる。

だからこそ、きっちり満足してもらえるものを提供しなければいけないんだ。
じゃないとわざわざお金を払って美容院にお願いする意味がない。

俺の答えに、沙羽さんが無言で瞬きをした。それからくいっと首を斜め後ろに倒して、俺の顔をじっと見上げてから、おもむろに手を伸ばしてきた。
ちょいちょい、と屈むように手招きされて、戸惑いながら少し腰を降ろすと、沙羽さんの手が俺の顔に届いて、いきなりむぎゅっと鼻をつままれた。