年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「ちょ、何するんですかっ」
「だってすっごい怖い顔してたから。そんな顔してたらお客さんが怯えちゃうよ?」

俺の表情を真似するように、沙羽さんがわざとらしく眉間にシワを寄せている。

そんなに険しい顔をしていただろうか、俺。

「難しくないんなら気楽にやろうよ。だってこれ、ただの練習でしょ?」

「練習ですけど、俺にとっては限りなく本番に近い練習というか……」

「じゃあ一回思いっきり失敗しとけば? いいじゃない、切っちゃうわけでも染めちゃうわけでもないんだし、失敗したらやり直せば。大体失敗とかあるの? 要は可愛くなればいいんでしょ?」

まあそうなんですけど。
別に明確な正解があるわけじゃない、どの技術にしたって、お客さんが気に入ればそれが正解。

「私、初めてプレゼンする子にはこう言うの。まずは楽しめ、堂々としてれば変なとこがあったって意外とバレないから、って。なんか言われたら、私のプランはそれで正解なんです、って言い張ればオッケーだって」

傾けていた顔を正面に戻して、鏡の中の沙羽さんがにっと笑って俺を見ている。

それは俺も何度も言われた。同業者でもない限り、細かいミスなんてまず気付かない、とにかく自信を持てって。
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