恋する白虎
杏樹は、鼻がツーンとして、眉を寄せた。

やだ、涙が……!

「杏樹」

杏樹は、ポロポロと涙をこぼしながら言った。

「ごめんね、永舜。私、怖くて。
決断できないの。永舜の事が大好きなのに、この生活を捨てるのが怖い。永舜だけを、選べないの」

永舜は瞳を伏せ、しばらく黙っていたが、やがて気遣うように杏樹を見て、口を開いた。

「もう、泣くな」

永舜は立ち上がると、杏樹に歩み寄り、頭に優しく手を置いて、自分の胸に抱いた。

「すまない。俺が白虎で」

その言葉を聞いて、杏樹は胸がギュッと痛んだ。

「私こそ、ごめん」

どうすればいいか、分からなかった。

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