恋する白虎

窮奇の思惑

翌日。

「杏樹」

久し振りに聞くその声に、杏樹は心臓がヒヤリとし、弾かれたように顔をあげた。

見ると、机に腰かけた杏樹を、美雨が見下ろしていた。

美雨に笑顔はない。

「美雨……」

美雨は杏樹を見据えて静かに言った。

「私、パリに行くの」

「そう……」

「それと」

美雨は腕を組んで息を吸い込み、ゆっくりと吐いてから呟くように言った。

「私、杏樹の事、嫌いだったのよね」

杏樹は、驚いて息を飲んだ。

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