恋する白虎
白虎は胸の中の杏樹を覗き込んだ。

潤んだ、焦げ茶色の大きな瞳。

「もう叫ぶな。俺はお前に危害を加えたりしない。話を聞いてもらいたいんだ」

ま、まだ、死にたくない……!

杏樹は、これ以上騒ぐと殺されるかも知れないと思い、力を抜いて抵抗をやめた。

「もう叫ばないか?」

うん、うん、コクン。

杏樹が頷くと、白虎は大きな手を杏樹の口からはずした。

それから小さく息をつくと涼やかな眼差しを杏樹に向け、低い声で話し始めた。

「俺は、人間じゃなくて白虎なんだ」

…人間じゃない…?

杏樹は全身に寒気が走り、真冬の海に沈められたような錯覚を覚えた。

やだ、イカれてるんじゃないの?

騒いで殺されたくない杏樹は、小さな声で白虎に言った。
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