恋する白虎
「窮奇、その人間は、なんだ?今晩のお前の食い物か?今日のはあんまり美味そうな匂いがしねえな」

窮奇は、思わず舌打ちした。

「餓鬼。この女は餌じゃねーよ。あっち行け」

餓鬼は、大きな眼をギョロギョロと動かして、舐めるように杏樹を見た。

「じゃあ、なんだ、この女は」

「連れだ」

杏樹は、餓鬼の恐ろしい姿を見て息を飲んだ。

「大丈夫だ、杏樹。お前の事は俺が守るから……」

窮奇はそう言うと、片手で杏樹を抱いたまま、静かに眼を閉じた。

「うん…」

杏樹もまた、強烈な眠気に眼を開けていられなかった。
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