恋する白虎
窮奇は、杏樹よりも先に目覚めた。

もう、どこも痛くない。

杏樹を抱いたまま泉から出ると、全身を見回し、傷が癒えたのを確認するとニヤリと笑った。

それから杏樹を自分の家の寝台に横たえ、考えた。

杏樹をこのまま帰したくない。

ここで、一緒に暮らしたい。

無理矢理でも、騙してでも。

あと数日で、地底と人間界をつなぐ門が完全に閉まる。

今は、明け方と、夕方に一度づつ開くが、あと数日経つと、むこう百年は一寸たりとも開くことがない。

あと数日、何とかして引き留めれば、杏樹は俺のものだ。

「杏樹、俺のものになれよ」

窮奇は地に膝をついて、横たわる杏樹にそっと囁いた。
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