恋する白虎
「だけど……」

永舜は、苦しかった。

杏樹が無事に命を取り止めるなら、もう何も望まないと思ったクセに、俺は、それ以上を望んでいる。

杏樹を誰にも渡したくないし、もう一度自分だけをみて欲しい。

記憶を無くしたのは杏樹のせいじゃないのに、俺以外の男と親しくしているのを見ると腹が立って仕方がない。

杏樹の純粋さに惚れてるくせに、その邪気のなさが無性に俺をイラつかせる。

俺は、俺は……。

永舜は、大きく息を吐き出すとクルリと杏樹を振り返り、はっきりとした声で言った。

「いくら記憶を無くしても、お前は俺のものだ。
俺から離れるのは許さない」

永舜は、そう言い放つと大股で歩いて部屋から出て、瞬く間に白銀の虎に姿を変え、天空に舞い上がった。

頭を冷やしたいと思った。
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