恋する白虎
鴆の襲来の一日前、出陣する白虎以外の者は、屋内への避難が義務付けられた。

杏樹は、屋敷を後にしようとしていた永舜を呼び止めた。

「どうした」

涼やかな顔に浮かぶ優しい微笑みに胸をつかれながら、杏樹は言葉を選んで永舜を見つめた。

「どうぞ、くれぐれも気をつけて…エイシュンさんの無事を祈ってます」

永舜は、真っ直ぐに杏樹を見つめた。

茶色の潤んだ瞳に、女性らしい上品な鼻筋、桜の花びらを思わす美しい唇。

杏樹、杏樹。

永舜は、胸にのし掛かる何とも言えない感覚を感じた。

「必ずや西天を守る。案ずるな」

切れ長の眼に強い力を込めて、永舜は口角を上げた。

杏樹は息を飲んだ。

こんな不敵な永舜を見たのははじめてであった。

男らしく、逞しく、力強い永舜を感じ、杏樹は何度も頷いた。

永舜を信じようと思えた。
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