恋する白虎
杏樹は震える声で言った。

「……運命?運命だなんて、言わないでよっ」

涙声で自分の言葉を否定した杏樹を見て、永舜は小さく息を飲んだ。

「泣くな、杏樹」

「運命だなんてっ……!これが、運命だなんてっ」

永舜を突き飛ばして、杏樹は部屋を飛び出した。

これが運命だとしたら、私の恋は絶望的じゃない!

永舜のバカ!

杏樹は家を飛び出した。

始まってもいない恋は、あまりにも苦かった。

『俺達はもう、』

永舜は、ひとりきりになった家の中で、立ち尽くした。

「はじまってるんだ、杏樹……」

言えなかった言葉を小さく呟いた。

赤い空を見てこの百年を思い返そうとしたが、浮かぶのはさっきの杏樹の泣き顔だけであった。
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