恋する白虎
「永舜は、あの女に惚れてるのか」

窮奇は、唇の端を吊り上げて笑った。

あの女を奪ってやれば、ヤツは……。

ただ、白虎は強い。

窮奇とは、格が違うのだ。

それに窮奇が自由に動ける時間は、ほんのわずかだ。

…ちょっとからかう程度に、やっつけられれば。

門が閉じるまでに帰らなければ、いずれ窮奇は死ぬ。

人間界では生きられないのだ。

窮奇は人の姿に変わると、その男らしい顔に手をやり、ニヤリと笑った。

百年に一度の楽しみが、より大きくなりそうだぜ。

窮奇は、眼を閉じて唇を引き結び、集中した。

脳裏に、杏樹の姿が浮かぶ。

フッ、見つけたぜ。

窮奇は、拳を合わせると、瞬く間に有翼の虎に変わり、空を駆けた。
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