恋する白虎
***

杏樹は息が上がり、足を止めた。

ハアハアと肩で息をし、あまりの苦しさに膝に手を置き上半身を折り曲げた。

……飛び出して来ちゃった。

何も持たずに。

足元を見ると、靴を履いていなかった。

靴下が泥水に汚れて濡れ、とても冷たかった。

「私、バカだなー」

「誰がばかって?」

ビクッとして振り返ると、スラリとした男が立っていて、自分の顔を擦りながらこっちを見ていた。

髪は短い赤毛で、迫った眉の下の野生的な眼も赤色であった。

杏樹は思わず後退り、男の顔を凝視した。
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