初恋
嵐の前
早く帰って来いという両親に、わたしだって「仕事」があるんですから、と大見得をきって、
帰省の電車に乗ったのは8月に入ってからのことだった。
仕事といってもアルバイトなんだけど、夏休みに入ってみんなが休みを取りたがったので、
出来る限りは店に出ようと思ったのだ。
それでも、帰省しないわけには行かないし、店長に謝りながらそのことを伝えると、
「みんなが伊藤さんみたいやったらいいのにな。」と言ってくれた。
帰省の日を水曜日にして、直ちゃんと神戸駅で待ち合わせる。
もちろん、例のひま人も一緒だ。
「りゅうさんもバイトくらいすれば?」と言うと、
最近は、昼間でも家庭教師のスケジュールがつまっているのだという。
学生を派遣している会社が、夏のランクアップキャンペーンなるものを始めて、
「あこぎな金儲け」をしているそうだ。
忙しいけど、今日は特別。そういうりゅうさんに、
「おれが休みやからって、お前まで休まんでもいいねんで。」と、
直ちゃんは相変わらず冷たい。
それでも、「なおタンほっとったら一日中やらしいDVD見てるしな。」と平気なもんだ。
「あほ、そんな気力あるかい。」と、いささかばて気味の直ちゃんだ。
秋口に、関西の製菓店がほとんど参加するコンテストがあって、
新作のお菓子を作るために毎晩遅くまでお店にいるらしい。
その手の甲にやけどの跡があるので、大丈夫、と聞くと、
「こんなん、へたくその証拠やから、見んといて。」と恥ずかしそうに言われた。
駅の裏の、「ここはおれでもおいしいと思う」というラーメン屋さんでお昼をご馳走になって、
またお菓子の紙袋を渡してもらった。
「いつもごめんね。」と言うと、
「おばさんたちによろしくね。」と答えてくれた。
改札のところで、もうひとつ、気になっていたことを聞いてみた。
「水曜日やのに、ごめんね。」
直ちゃんにとって、水曜日は大切な日ではなかっただろうか。
わたしの意図を悟ったらしく、「忙しいねんて。最近ずっとふられてばっかりや。」と鼻の頭にしわをよせて笑いながら言う。
「そしたら、またね。」
「うん。気をつけて。」
ホームに上がると、夏の日差しが照りつけていて、一瞬めまいがした。
帰省の電車に乗ったのは8月に入ってからのことだった。
仕事といってもアルバイトなんだけど、夏休みに入ってみんなが休みを取りたがったので、
出来る限りは店に出ようと思ったのだ。
それでも、帰省しないわけには行かないし、店長に謝りながらそのことを伝えると、
「みんなが伊藤さんみたいやったらいいのにな。」と言ってくれた。
帰省の日を水曜日にして、直ちゃんと神戸駅で待ち合わせる。
もちろん、例のひま人も一緒だ。
「りゅうさんもバイトくらいすれば?」と言うと、
最近は、昼間でも家庭教師のスケジュールがつまっているのだという。
学生を派遣している会社が、夏のランクアップキャンペーンなるものを始めて、
「あこぎな金儲け」をしているそうだ。
忙しいけど、今日は特別。そういうりゅうさんに、
「おれが休みやからって、お前まで休まんでもいいねんで。」と、
直ちゃんは相変わらず冷たい。
それでも、「なおタンほっとったら一日中やらしいDVD見てるしな。」と平気なもんだ。
「あほ、そんな気力あるかい。」と、いささかばて気味の直ちゃんだ。
秋口に、関西の製菓店がほとんど参加するコンテストがあって、
新作のお菓子を作るために毎晩遅くまでお店にいるらしい。
その手の甲にやけどの跡があるので、大丈夫、と聞くと、
「こんなん、へたくその証拠やから、見んといて。」と恥ずかしそうに言われた。
駅の裏の、「ここはおれでもおいしいと思う」というラーメン屋さんでお昼をご馳走になって、
またお菓子の紙袋を渡してもらった。
「いつもごめんね。」と言うと、
「おばさんたちによろしくね。」と答えてくれた。
改札のところで、もうひとつ、気になっていたことを聞いてみた。
「水曜日やのに、ごめんね。」
直ちゃんにとって、水曜日は大切な日ではなかっただろうか。
わたしの意図を悟ったらしく、「忙しいねんて。最近ずっとふられてばっかりや。」と鼻の頭にしわをよせて笑いながら言う。
「そしたら、またね。」
「うん。気をつけて。」
ホームに上がると、夏の日差しが照りつけていて、一瞬めまいがした。