初恋
駅にはまた、父が迎えに来ていて、
私の持っているお菓子の袋を見ると、「直ちゃん元気か?」と、
しらふで聞いてきた。

大丈夫やで、お父さん。
お父さんが心配してるようなこと、当分ないから。
永遠に、かもしれないくらい、ないから。

その日、リクエストもしていないのに母が夕飯にてんぷらを用意してくれている。

今度は「手伝おうか」と声をかけてみると、

「やっぱり外に出してよかったわ。あんたみたいなのでもちょっとは成長するねんな」と、おおげさに驚いてみせた。

こういう何気ないことが、きっと直ちゃんの「手を出してはいけない」と感じることだったんだろうなあ。

自分がこういう家庭に育っていることを、
今まで当たり前だと思っていたが、改めてありがたく思い、
それから、そのことを少しだけ負い目に感じた。

直ちゃんにだけではない、りゅうさんにもだ。

手のかからん子やった、というが、
それは、子どもなりに母親の手を煩わせないように努力した結果であるに違いないから。

あの二人、似てるのかな、と思う。

お互いに母親に、りゅうさんの場合はかすかな、直ちゃんの場合は確かなわだかまりを持っている。
そんな子ども同士が、あの部屋で一緒にごはんを食べて、
にせものの家族を作っているのが切ない。

母が、「直ちゃんは元気か?」とまた聞いて、

答える前から、「また遊びにおいでってちゃんと言うてよ。」と言う。

「うん。言うとく。」

直ちゃん、直ちゃんの家族はここにもおるで。

また中学生のときみたいに、遊びに来てくれるといいなあ、と思った。
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