初恋
まだだま残暑が厳しい八月の終わりに神戸に戻った。
カーテンを閉めっぱなしにしていた部屋は熱気でむせるようだったが、
自分の居場所はここだ、という妙な安堵感を覚えた。

九月に入ると、以前と同じ生活が始まった。

朝学校に行き、樹里ちゃんと講義を受け、食堂でごはんを食べる。
夕方からアルバイトに行き、8時に店を閉めてあまったパンがあればもらって帰ってくる。

店との往復のために自転車を買った。

小学校時代の友達ともまた会い、ごはんを食べて今度はカラオケにも行った。

留美ちゃんはアルバイトにだいぶ慣れ、
「新しい子は根性がなくていかん。」と、ちょっとしたベテランの風情を漂わせていた。

水曜日は避けたものの、
直ちゃんにメールをすることがまた始まった。

やっぱり、わたしのメールはくだらないことばかりで、
店の変わったお客さんの話とか、カフェラテとカフェオレは同じだと思うとか、
そんなことだ。

それでも、直ちゃんは楽しそうに返事をくれる。

カフェラテとカフェオレは同じで、どちらかがフランス語で、どちらかがイタリア語なんだそうだ。

九月の終わりごろから、わたしは週に一回くらいの割合で、直ちゃんの部屋に夕飯を食べに行くようになった。

もちろん二人じゃないのが悲しいところだけど、
直ちゃんの食生活を考えたら、わたしと二人でいてもしょうがないのは目に見えている。

最近忙しくて、昼食をとる時間もないことがあるそうだから、
りゅうさんのごはんは、直ちゃんにとって貴重な栄養源であることは間違いない。

時々、神戸のホテルで仕事を終えた留美ちゃんも混じるようになった。

駅に着くと、手の開いてるときは極力、という感じでりゅうさんが迎えに行くようになったから、二人で顔を見合わせて、「あれ?」という表情になる。

他の人から見ると、二組の恋人同士に見えるかもしれない四人だが、
どこにも恋愛関係が成立していないのがおかしく、また気楽でもあった。

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