初恋
ある夜、留美ちゃんがいないときに、
綾人さんの話を聞くことができた。

わたしの兄の話をしているとき、ふと思い出して綾人さんのことを聞いてみたのだ。
行方不明って聞いたけど、というと、
カラーボックスから箱を出して、そこから一枚のはがきを探し出した。

テレビで見たことのある南米の遺跡の絵はがきだった。
ペルーやな、とりゅうさんが言ったのはさすがだ。

切手も見たことのない外国のもので、
ここの住所がアルファベットで書かれている。

「あいつ、母親の実家で暮らしてたみたいやけど、
二年の途中で勝手に休学届け出したらしい。
それで、バイトで貯めた金持っていきなりいなくなったらしいわ。」

ええっ?と驚いているわたしに対して、
直ちゃんは、言ってることに似つかわしくないうれしそうな顔だ。

「ほんで、これ。」

はがきの表には、几帳面な字で
「昨日首を絞められて強盗にあいました。元気です。
そのうち帰りますので、直人も無理せんように。」と
書かれていた。

「一年ふらふらしてたみたいやけど、今は帰ってきて、大学も卒業したらしい。
親父の跡継ぐんかどうか知らんけど、当分は東京でサラリーマンするんやて。」

それにしても、強盗にあって元気ってどういうことやねんな、と
直ちゃんはやっぱりうれしそうにはがきをくるくる手でまわした。
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