初恋
十月にコンテストの発表会が三宮の百貨店であって、
留美ちゃんとわたしは直ちゃんのお店に投票するために出かけていった。
一般投票も成績に加算されるのだ。

白い布をかぶせた名がテーブルに、たくさんのケーキが並んでいる。

その間をいろんな人が通り抜け、口々に批評を述べている。

全部かわいくて、おいしそうに見えて、
わたしたちはよだれをたらさんばかりの勢いで見てまわった。

「あーん、クリームの中で泳ぎまわりたいー。」なんて、考えるだけで体がべたべたしそうなことを留美ちゃんが言う。

一年の間毎日毎日、生クリームをケーキの土台に塗る練習をしたことがある直ちゃんは、一時、「こんなこと言うたら失格やけど」
クリームを見るだけでぞっとすることがあったそうだ。

留美ちゃんの言葉を聞いたらどう思うだろう。

どれも素敵だったけど、投票するのは最初から決まっていたので、
出口の箱に、直ちゃんのお店の名前を書いた紙を入れて会場を後にした。


それにしても、留美ちゃんって不思議な子だなと思う。

はっきりしたきれいな顔立ちで、スタイルもいい。
女性らしいというか、出るところがちゃんと出てて、わたしはいつもうらやましく思うばかりだ。

その留美ちゃんだが、一緒に行った合コンでは散々だったみたいだ。

わたしはその頃、初めて合コンなるものに参加した。

樹里ちゃんが誘ってくれて、「友達の彼氏の友達を」四人集めたこと、
女の子はわたしとクラスの子が一人、もう一人女の子が足りないことを告げた。

わたしが留美ちゃんを誘おうというと、浮かない顔をしたから、
樹里ちゃんから見るとわたしは「安全パイ」のようであるらしかった。

結局、留美ちゃんも一緒に行くことになったのだけど、
きれいな留美ちゃんが話し始めると、とたんに男の子たちが元気がなくなるのが目に見えてわかった。

けっこうきついね、あの子、とわたしの隣に座った松本くんがそう言うので、
そうかなあ、と答えた。

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