初恋
そんなことを、直ちゃんやりゅうさんが言うのをきいたことがない。

もっとも、りゅうさんは留美ちゃんに面と向かって、「お前は口から毒を吐きながら生きとる。」とくらいのことは平気で言う。

もっとも、そんなことでへこむ留美ちゃんではなく、直ちゃんが何か言おうするのをさえぎって、「そういうあんたはゴミばっかり吐いとる。」とやり返したのは爆笑ものだった。

垂水の焼肉屋さんで行われたその合コンで、
わたしは松本くんとメールアドレスを交換した。

留美ちゃんは「別に。」だったそうで、
そのことを直ちゃんの部屋にきたときに、めずらしく愚痴るように言った。

直ちゃんは前ほど遅くなることも減って、
八時くらいには食事がとれるようになっていた。

「お前みたいな怪獣、並の男に扱えるか。」と、
りゅうさんは焼いてマリネにしたアスパラガスを口に運びながら言う。

最初の頃、留美ちゃんの前ではおとなしかったのがうそみたいだ。

直ちゃんに言わせれば、わたしとの初対面が例外だそうで、
たいてい女の子の前ではあんな感じらしいのだけど。

「黙れ珍獣。」

「そういう態度があかん。」

そういうやり取りを見ていると、そういうりゅうさん自身が「並の男」じゃないよ、なんて、ふとおかしくなる。

わたしがくすくす笑っていると、
直ちゃんが表情を正して、

「で、松本くんっていうのはどうなん?」と聞いてきた。

ほんと、あなた、わたしをふったんですよ。

「別に。たまにメールが来るけど。」とうそをついた。

本当は一度だけ会った。樹里ちゃんと、その相手と一緒だったから、
二人きりというわけではなかったけど。

六甲にある有名な私立大学に通っている彼らは、
女の子と遊ぶのにも慣れているみたいで、
雑誌に載っているかわいいカフェに連れて行ってくれた。

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