初恋
髪をとかして、マスカラを塗りながら、
そんなに気合入れんでもいいか、とわたしは思う。

最初の頃は時間がかかった化粧も、近頃ではだいぶ慣れた。
いつもどおりの手順を、いつもどおりにこなすだけである。

鏡にテレビの画像が映っていて、天気予報が気になったので後ろを振り向いた。

一人で部屋にいると、なんとなくテレビをつけてしまう。
観ているわけではなくても、音があるだけで安心するのだ。

そろそろ寒くなるな。

長袖のカットソーにカーディガン、
ううん、セーターにしようかな、と迷った挙句、
ボーダーのセーターとジーンズを身に着ける。

かばんを持って部屋を出ようとすると、一時間前にやっていたニュースが再び流れ始めた。

朝のワイドショーは、一時間ごとに同じニュースを流すのだ。

昨夜神戸市内の公立高校で、一年生の生徒が自宅で自殺する事件がありました。
いじめを苦にした模様で、遺書にはクラスメイト数人と担任の教師の名前が書かれていたということです…。

ああ、出がけにいやなニュースだな、とぱちんと電源を切る。

高校にもなってばかみたい。

少しだけ、そのニュースのことを考えたけど、
バスの時間のほうが気になってすぐに忘れてしまった。


樹里ちゃんは最近きれいになった。
服もかわいらしいものに変わったし、化粧品もこまめにチェックしているみたいだ。

あれから、合コンで知り合った男の子と付き合い始めたらしい。

「美代ちゃんもがんばりな。」と余裕の発言が鼻につくけど、

女の子は恋をするときれいになる、という言葉を体言している様子をみるのはうらやましい限りだった。

ああいう子はあんまり好きじゃないけど。

浮ついていて、世の中の楽しいことばかり考えていて、
直ちゃんとはぜんぜん違うもん。

心の中で負け惜しみを言ってみる。

わたしもいつか、そうなれるんだろうか。

そのとき、わたしのそばにいるのは直ちゃんなんだろうか。
誰か別の人なんだろうか。

一度、章子さんには本当に申し訳ないけど、
年上の章子さんが亡くなってしまったら、直ちゃんはわたしの方を振り向いてくれるのではないかと考えたことがある。
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