初恋
JRで長田まで出て、地下鉄に乗り換えた。

山を始点にして、いったん海へ降り、また山に向かうU字型の路線の地下鉄は、
新しいこともあって、清潔な、無機質な感じがする。

名谷で降りると、そこはマンションや団地といった、垂直方向の建物が多い町だった。
神戸や大阪のベッドタウンというところなのだろう。

駅前は広場になっていて、朝や夕方にはここにたくさんの人があふれるだろうことは容易に想像できた。

そこのはずれにある時計のついた鉄柱の前で、留美ちゃんは電話をかけた。

今度はすぐにりゅうさんが出た。

寝てた、と言うので、駅にいることと、家を知らないのでここまで来てほしいことを留美ちゃんが伝えた。

名谷まで来てる、というとびっくりした様子で、
それから声が大きくなったのが電話越しに聞こえた。

お前たちまで文句か嫌がらせか、というようなことを言われたようで、

留美ちゃんが、迫力のある声でびしっと、

「心配しとるから来てるんや!」と言い切った。

それからたたみかけるように、構内のパン屋におるから、
急がなくてもいいけど早く来て、と矛盾することを言って電話を切る。

電話をかばんにしまいながら、

「まあ、ああでも言わんとな。」と言ったけど、
照れた顔でもなかったので、その胸の奥まではのぞくことができなかった。
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