初恋
駅の構内に座って食べられるパン屋さんがある。
ほんと、神戸にいるとこういうお店には不自由しないのがありがたい。

朝もアルバイト先の売れ残りのパンを食べたのに、
コーヒーとくるみパンを買った。留美ちゃんはフレンチトーストをトレイに乗せている。

それを食べ終わる頃、ガラス越しに久しぶりにみるりゅうさんの顔が見えた。

だいぶ寒くなったのに、スニーカーの中は素足だったから、それなりに急いで来てくれたのかな、と思った。

コーヒーとサンドイッチをふたつにカレーパン。
それらをテーブルの上においてからわたしたちの向かいに座る。

「ほんで?そんなに会いたかった?」と、いつもどおりのふざけた口調だ。

「まあ、そういうとこ変わってなくて安心したわ。」と、
留美ちゃんは微妙な言い方をした。

りゅうさんは、サンドイッチの包装を開きながら、

「聞きたいことがあるんやったらなんでも聞いて。」と、開き直った風で言う。

そう言われると、何から聞いていいかわからなくなるものである。

留美ちゃんが、「大丈夫?」と聞いた。

「見たらわかるやろ。かなりへこんでる。」と言いながら、サンドイッチをあっという間に平らげてしまった。

「まあまあやな。これ。」と次を開けようとしている。

「へこんでるの?」と今度はわたしが聞くと、

「普通の人間やったらへこむわ。」と返ってきた。

もうひとつもすぐに食べおわると、

「お前ら、案外根性ないな。もっと聞きたいことあるくせに。
この前来た雑誌の記者なんかすごかったで。あることないこと言いよったけどな。」
と言った。

「聞こうと思ってきたけど、顔見たらどうでもよくなった。」

留美ちゃんは、珍しく歯切れの悪い言い方をする。

でも、それはわたしも同じだった。
顔を見て安心したのもあるし、
同時に、どうもよくないことらしいとわかっていたから、わたしたちが踏み込んで聞くのもどうかと躊躇する気持ちが、やはりある。
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