初恋
わたしたちがそろって、元気でよかったよね、うん、なんて言い合っていると、
どうも調子が出ないらしく、

「なんか気持ち悪いな。」とりゅうさんは落ち着かない様子だ。

カレーパンまで食べ終わると、なんや、ここ禁煙かと言ってから、
コーヒーをもうひとつ買いに立ち上がった。

それから、ごく手短に、

章子さんの学校の生徒で自殺した生徒がいたこと、
その担任が章子さんだったこと、
遺書には「先生に相談したのに相手にしてくれなかった」と書かれていたことを
教えてくれた。

学校側は、章子さんから報告があがっていなかったことを理由にして
ひとまず自宅謹慎という形になった。

それでいったんは終わったはずなのだが、
インターネットの掲示板に、在校生やら卒業生やらが
学校の住所と電話番号、それから章子さんの名前と住所が書かれてしまったことも話した。

掲示板では、過去にいじめにあった人、
それを先生が助けてくれなかったり、逆に追い詰められたりした経験を持つ人たちが、
章子さんをあしざまにののしった。

給料もらって謹慎か、公務員はいいね、とか、
人殺しに社会的制裁を加えよう、とか書いてあって、

「おれも今まで興味本位で見てたからわかるけど、
それが正しいみたいに思えてまうねんよな。
他人事やったけど、自分のことになるとなかなかハードやわ。」とりゅうさんは皮肉を言うように言った。

中には、いい先生だったのに、とか書いてるのもあって、
そんなん見ても、身近にいるやつがそれを見てるというのがまた怖いと言う。

それから、「まあ、早く落ち着いてもらいたいわ。」と言った。

「直ちゃんはどう言うてるん?」と聞くと、

「元気でやってるで。」としか教えてくれなかった。

留美ちゃんが、うまいこと言われへんけど、がんばってな。と最後に言うと、
りゅうさんは今日初めて安堵したように笑って、「ああ。」と言った。

そんな素直なりゅうさんを見るのは初めてだったから、
びっくりしたけど、少しだけ明るい気分になった。


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