初恋
地下鉄の切符を買うとき、留美ちゃんが、
「直ちゃんのとこ、行く?」と聞いてくれた。

行ったとしても仕事中だし、
終わるまで待つのもできるとは思うけど、
直ちゃんが今会いたいのはわたしではないはずだった。

だから、「ううん。」と簡単に答える。

とはいえ、もう今日は学校に行く気にはなれなかった。
時間がちょうど昼をすぎるくらいだったので、
長田の駅で降りて、ごはんを食べることにした。

地上に出ると、神戸特有の空っ風が頬につきささる。

ファミレス行こか。ドリンクバーあるしな。

なんだかいろいろなことが急にあったので、二人でゆっくり話したかった。
こういうの、女の子の特権なのかな。
別に結論の出ない話、結論なんていらない話でも、
しゃべってしまうと解決したみたいな気持ちになれる。

駅から少し離れたところにあるそのレストランまで歩くとき、
大通りからは見えない空き地がまだあることが気持ちを暗した。

そういえば、りゅうさんのお父さんのおうちも長田やったな、とふと考える。

レストランの暖かい空気の中に座り、
さんざん迷って、わたしは目玉焼きハンバーグ、留美ちゃんはまぐろのたたき丼とミニうどんのセットを注文した。

飲み物も何回かお代わりし、夕方、お互いにアルバイトがある時間まで
おしゃべりをして、
留美ちゃんみたいな子が友達になってくれてよかったと本当に思った。

わたしが感謝しているのに、留美ちゃんってば、

「朝からずっと食べてるな。美代子とおったら食べることばっかりになってまうわ。」と失礼なことを言うのだった。
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