初恋
昔、あきらめるのが早すぎると章子さんに怒られたことがあったが、
こういうときもがんばればなんとかなるのだろうか。

聞いてみたい気がする。

しかし、もう自分の口はこれ以上何もしゃべってくれそうになかった。

「なあ、三浦くん。
わたしな、もうこれ以上一緒にいたくないねん。

わたしはきれいじゃないし、若くもない。
三浦くんと同い年の子どもまでおる。

しわもできるし、しみだってできるし、どんどんきれいじゃなくなる。

そんな顔、三浦くんに見られるのはいややねん。

おまけにそれを重荷に思ってしまって、それで人を一人死なせた。

そんな自分が、もういやなん。」

力が抜けてしまった直ちゃんの手を、章子さんは離し、
それから逆に上から両手を重ねてきた。

しわとかしみとか、そんなんどうでもええよ。
そう言ったものの、そんなことが全部の理由ではないことくらいわかる。
おまけに最後は涙声になってしまったのがみっともなかった。

こんな男やからあかんのかなあ。

おれは章子さんの前で泣いてばっかりやな、と冷静に考えると
心底情けなく思えてきた。

再びやっとの思いで、

隆司とは仲良くやっているから問題ないこと、
どんな顔でも見ていたいし、好きでいるということを伝えた。

それでも、章子さんは、

「わたしが見られたくないねん。」と、泣きながら笑った。

好きやったよ。
だけど、ずっと一緒にいられる相手じゃない。

ごめんね。

重ねた手の平から、静かに章子さんの気持ちが伝わってきて、
もう一度だけ、「いやや。」と言ってみたけれど、

返ってきた答えは、「ごめんね。」というものだった。
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