初恋

クリスマス

なおが自殺でもしたらどうしよう、なんてりゅうさんが言うので、
不吉なこと言うな、とグーで腕を殴ってやった。

まあたいして痛くもなかっただろうけど、
こんなときに言うなんてほんと、こいつの常識を疑ってしまう。
もしそんなことになったら、わたしは一生章子さんを許さない。

カレーもおいしく出来上がって、ごはんもたけて、
サラダも作った。
ドレッシングはサラダオイルと酢としょうゆ、塩コショウをあわせたもので、
わたしが最終チェックをしたからそれなりの味になっているはずだ。

二人でテレビを観たり、コンビニに福神漬けを買いに行ったり、
そわそわして過ごした。

こんなに心配してる人間が、ちゃんとここにいるんだから、
きっと帰ってくるよね。

あ、帰ってこないほうが、ハッピーエンドになるんだろうか、なんて考えていると、九時を過ぎた頃に鍵が開く音がした。

二人とも大急ぎで立ち上がって、それほど広くもない部屋から玄関へ歩く。

「ただいま。」

泣いたのかな。
目が赤い。まぶたが少し腫れていたけど、直ちゃんの顔が見られてほっとした。

「おかえり。」

二人して言うと、直ちゃんは疲れた顔で笑った。

ごめん、電車で帰って来た。鍵は章子さんに返したから、とりゅうさんに告げる。

ええで、まあ座り、とテーブルに座らせ、わたしがビールの入ったコップを渡すと、
一息で飲んで、

「あかん。ふられたわ。」と、言って息を吐いた。

しばらくの間、わたしたちが何も言えずにいると、

直ちゃんがりゅうさんに、

「今までありがとうな。」と言った。

りゅうさんは、「お疲れさん。」とだけ返して、

「飯食うか?」と聞いた。

「いらん。食欲なんかぜんぜんない。当分何もいらん気分や。」と言う。

すると、自分から聞いたくせに、

「あかん。昼も食うてないやろ。
人間な、食べるものがしっかりしとったら、たいていのことはうまくいくんや。
こんなときはしっかり食べ。」と言って台所へ立った。


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