初恋
大阪に住んでいるといっても、
市内の都会に出るのには1時間近くかかる。

梅田駅で朝食を食べ、
(わたしは生まれてはじめて喫茶店に入った。)
阪神電車に乗り、瀬戸内の海が見えたのは昼近くになってからだった。

やっぱりきれいやなあ。
海に、コンクリートの塊がどんと建っていて、
あれがつり橋になるのだと母が電車の窓から指をさして教えてくれた。

神戸の人間は、山が北、海が南だという方向感覚を持っているから、
山だらけの盆地に連れて行かれると、とたんに方向がわからなくなってしまう。

おかしなことだけど、そういう感覚が確かにある。
だから、この風景の中に帰ってくると妙に気持ちが落ち着く。

着いた駅に、花屋さんを営んでいる小川さんが車で迎えに来てくれていて、
わたしたちを家に迎えてくれた。

わたしの家だった場所は、まだ誰も住んでいないみたいだ。
店のシャッターも閉まっている。

小川さんの家に、店が少し暇になったといろんな人が顔を出し、
母が「久しぶり!」と声を弾ませていた。
わたしといえば、小川さんが出してくれた特製の散らし寿司を食べながら、
どうやって直ちゃんに会おうかと考えていた。

小川の真弓ちゃんは、この春中学生になった。
どうでもいいことだけど、真弓という名前は、阪神タイガースの「往年の名選手」にちなんでつけられたものだ。
真弓ちゃんも立派な阪神ファンだから、それでいいみたいだけど、
わたしだったらちょっといやだなあなんて思ってしまう。

その真弓ちゃんが、「みーちゃん、ゲームしよか。」と、
プロ野球ゲームを取り出したから笑ってしまった。

子ども二人がおとなしくゲームをしているから、
大人たちは安心して話にふけっている。

夕方ごろに、「買物行ってくるわ。」と、
母と小川さんは仲良く出かけていった。

阪神がかなりいい成績を残したので、真弓ちゃんは機嫌がいい。

< 25 / 170 >

この作品をシェア

pagetop