初恋
「はあ、びっくりしたわ。
そやけど、元気そうやな。」

背が伸びた直ちゃんが、わたしに視線を合わせてくれながらそう言った。

「元気やで。直ちゃんは?」

「おれも元気やで。」

「おばちゃんも?おっちゃんも、お兄ちゃんも元気?」

「元気でやってる。」

それから、一通りの近況をわたしは直ちゃんに報告した。

学校ではやっているマンガ、
誰と誰がつきあうようになるかもしれんということ、
兄が野球部の副キャプテンになったこと。

直ちゃんにとっては、死ぬほどどうでもいい話だったはずなのに、
へえ、と相槌を打ちながら聞いてくれた。

言っておくが、わたしは家で兄と話なんかしない。
直ちゃんと同い年の兄は、意地悪で、凶暴で、
3つ下の妹の話なんてまともに聞いてはくれない。

学校の男の子にも、こんな風に自分のことを聞いてもらいたいと思わなかったから、
とても不思議な気持ちがした。

そうして、わたしが話を終えると、
直ちゃんはわたしを小川さんの家まで送ってくれた。

帰ると小川さんの家ではちょっとしたパニックになっていた。

コンビニに行くと言って出た子どもが、ずいぶんと帰ってこない。

警察に行こうか、と小川さんが言ったけど、
母には心当たりがあった。

「あのあほが、連れに行ってくるわ」と、母が玄関を出ようとしたところで、
チャイムを鳴らそうとした直ちゃんと向かい合うことになった。

「もう、びっくりした。みんな心配してるやんか。」
と母。

「すみません。」と、直ちゃんがぜんぜん悪くないことで頭を下げた。

「こっちこそごめんな。美代子が勝手に行ったんやろ。わざわざありがとう。」

「いいえ。」

それじゃあ、とぺこりと頭を下げてから、
「みーちゃんも、ばいばい。」と言って直ちゃんは帰っていった。

あの家、おばさん帰ってきたかな。

ふと、明かりのついていない家に入る直ちゃんを想像して寂しくなった。

夜眠るとき、真弓ちゃんが、

「みーちゃん、三浦くんと仲良かったもんなあ。
そやけどなあ…」と、何か言いかけた。

最後まできくつもりだったけど、
久しぶりに会った直ちゃんのことを考えているうちに、
わたしは眠りに落ちていった。
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