初恋
さっぱりして男前になったで、と父が言う。

そうして、男前になった直ちゃんは、お盆の前までうちで過ごした。

意外なことに、祖父が直ちゃんを気に入って、
畑や釣りに連れて行くものだから、わたしもおじいちゃん、おじいちゃんと
普段になく一緒についてまわるようになった。

兄は夏の県大会に向けての猛練習でほとんど家にいなかったから、
直ちゃんが孫の代わりに思えたのかもしれない。

八月が一週間ほど過ぎた頃、
「楽しかったです。ありがとうございました。」と、
真っ黒に日焼けした直ちゃんは電車に乗って帰っていった。

お盆が終わって、久しぶりに学校の女の子の友達と遊ぶと、
4人ともわたしと口をきこうとしない。
誘ってくれたから、きらいってわけでもないはずなのに。

おかしいなと思っていると、
「美代ちゃん、彼氏ができてから付き合いが悪くなるのってどうかと思う」と
言われてしまった。

夏休みの前半、遊びの誘いをたいてい断ってしまっていたことと、
近所のしょぼいお祭りに直ちゃんと行ったことを言われているみたいだ。

実のところ、直ちゃんのことを彼氏だなんていわれると、
うれしいし、はずかしいし、また、一緒にいる女の子たちよりも
少し大人になったみたいで、
わたしは結局、「えへへへ。」と照れ笑いをするしかなかった。

それがあまりにもふてぶてしく見えたのだろう。

「はあ、なんかあほみたいや。」と、
みんなが笑ってその話は終わりになった。

「でもさ、やっぱり女って、友情より恋愛なんかなあ。」と一人が言って、
しみじみとポテトチップスをかみしめるわたしたちだった。
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