初恋
最初は笑い飛ばしていた父も母も、わたしが本気だとわかると猛反対をはじめた。

だいたい、高い志なんてものがあるわけでもない。
やりたい勉強があるわけでもない。

短大やったら大阪でもいっぱいある、と言われれば全くその通りだ。

だがしかし、わたしは、以前住んでいた町に近い大学が、
短期大学部があって、自分の偏差値でも手が届く範囲であるのを調べだした。

それから、
短期大学からは編入制度があること、
語学の授業が充実していて、留学もできること、
この不景気に就職サポートもしっかりしていることなど、
まるでその学校のセールスマンみたいになって親を説得し始めた。

学校はいい。

もうひとつの問題は、うちも大阪のはずれ、その学校も神戸のはずれにあって、
通うのが不可能に近いということであった。

「一人暮らしなんかさせられるか。」
と父は怒り心頭だ。
わたしの狙いが見え透いているだけに容赦がない。

しかし、着々とわたしは受験の用意をして、
「記念に受けるだけやで」という両親の言葉を尻目に、
見事合格を決めた。

そうすると、女の子を浪人させるのもかわいそうに思えてきたのだろう。
また、ここで就職を探したって何にもないのは目に見えている。

兄が、プロ野球選手になるのを断念して店を継ぐことを決意し、
理容の専門学校に通っていることもわたしには追い風になった。

ある日、母が根負けしたように言った。

仕送りはしてあげるけど、お小遣いはアルバイトをして稼ぎなさい。

小躍りして喜ぶわたしに、冷水を浴びせるように

「あんたは勉強をしに行くんであって、
直ちゃんに相手にされへんからって、帰ってくるのは許さへんからな。」
とも言う。

なんて不吉な言葉だろう。
だが、浮かれているわたしにはそれほど効果はなかった。
先日、合格を電話で報告したわたしに、直ちゃんはびっくりした様子だったけど、
それでも、「みーちゃんに久しぶりに会えるのは楽しみ」と言ってくれたのだ。
わたしだって楽しみだ!

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