初恋
「それってさ、その二人が付き合ってたりしてな。」と、
真顔で留美ちゃんが言ったので、
食べていたパスタがのどに詰まりそうになって咳き込んだ。

ローテーブルにひじをついて、苦しそうにむせるわたしに、
「ほい、水。」と、いたって冷静だ。

同じように一人暮らしを始めた留美ちゃんとわたしは、
ときどき一緒に夕飯を食べるようになった。

お互い親の目がないので、
どちらかの部屋でぐだぐだものを食べたり、寝転んだりしてすごす。

こういう気楽さは、一人暮らしのいいところだ。

その日も、講義が終わってからカフェで待ち合わせして、
留美ちゃんの部屋に転がり込んだ。
二人ともすっぴんで、留美ちゃんはTシャツにユニクロパンツ、
わたしは借り物の楽なワンピースという格好だ。

二人で寄るとパスタになることが多い。

料理じゃないといわれても、他に何ができるわけでもなく、
ゆでて、ソースをかけるだけなので手軽だし、
ちょっとサラダを添えると(これも洗って切るだけだけど)
それなりの夕食になるからいいんだ。

そのパスタを食べながら、ふと思い出してりゅうさんの話を留美ちゃんにしてみたのだ。
ほんとは直ちゃんに聞いてもらいたかったけど、
なかなか二人になれる機会がなさそうだから。

だからって。
なんでそうなる?

「怪しすぎるで。
もう同棲みたいなもんやん。
それに、おれの直人に手を出すな、ってもう愛の言葉やん。」

そんな言い方してませんから。

渡してもらった水を、
何度かに分けて飲んでやっと呼吸ができるようになったわたしは、
「違う」とやっとのことで言った。

「そうかなあ?」と、留美ちゃんは楽しそうだ。

「それはないわ。ぜったいない。」

「ないってなんで?」

「だって、りゅうさん男やもん。
直ちゃんだって男やし。」

「それは偏見ちゃう?」

「偏見でもなんでもあかん。」

「あかんて言うたって、それはしょうがないやん。」

「あかんもんはあかん。」

いややーと、駄々をこねるわたしを見て、
留美ちゃんはひっくり返ってぎゃははと笑い出した。








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