初恋
「うそうそ、そんなことないって。冗談やん。
うちらかて今一緒におるけど、そんなことありえへんやろ。」

確かにありえない。

だけど、あの二人が一緒にいる時間は、どう考えてもわたしと留美ちゃんのそれより長い。

直ちゃんは、「そんなことあるといいなあ」と笑ってかわすが、
付き合っている人がいるんじゃないかってことは、わたしだって何度も考えた。
優しいし、格好いいし、誰だって好きになると思うもの。

だからといって、ちがうよ。あれはない。

確かに、なおには手を出すな、とりゅうさんは言った。

でも、あげるわけにはいかん、とも言った。
あげない、ではなく、あげたくない、でもない。

直ちゃんには何かがあって、だからわたしがもらうわけにはいかないのだ。

それって何?
りゅうさんの知っている何かが、わたしは怖い。

「なんかなあ、近くに来れたと思ったのに、
大阪におるころより遠い人みたいやねん。」

わたしが急にしんみりと言ったので、
留美ちゃんはからかいすぎたのをすまないと思ったみたいだ。

「そんなことないやろ。
わざわざ会いに来てくれたんやし、
あの花束は相当うらやましかったで。」
と、明るい声で言ってくれた。

「でもさ、わたし、直ちゃんのことぜんぜん知らんねん。」

わたしはいつも自分のことばかり話していて、
直ちゃんは優しく聞いてくれていた。

「知ってるつもりやったけど、ぜんぜん知らんみたいや。」

わたしの知ってる直ちゃんは、
優しくて、そばにいてくれるだけで安心できて、
困ったことがあると一緒に考えてくれて、方向を示してくれる、そんな人だ。

でも、わたしは直ちゃんの困ったことに耳を傾けたことがあるだろうか。

留美ちゃんが、

「片思いのときってそんなもんと違う?」
と言って、
それから、はよ食べ、デザートにしょう、と促した。

「片思いかあ。」




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