初恋
「相手に近づいて、ほんまの姿が見えて、
幻滅したり、いやになったり、むかついたりするのって
両思いになるために試されてるような気がする。」

留美ちゃんが急に哲学的なことを言う。

「それでだめになるんやったらそれまでやし、
それが許せるかどうかってとこやと思う。」

わたしは言葉もなく、留美ちゃんの素顔を見つめた。

いやや、気持ち悪いこと言うたな、と言って、
留美ちゃんはまた寝転んだ。

わたしは冷えてしまったパスタを最後まで食べながら、
気になっていたことをきいた。

「留美ちゃんって、誰かと付き合ったことある?」

留美ちゃんは寝転んだまま、足を組んで言った。

「あるで。」

「高校のとき?」

「そう。」

「まだ…?」

「もう別れた。」

しばらく無言でいると、
留美ちゃんがはずみをつけて起き上がった。

「全部食べた?プリン食べよ。」と、空になった皿を持ってキッチンへ向かう。

それから、「なあ、ビール飲む?」と聞いてきた。

飲んだことなんてなかったけど、
「飲む」と答える。

ごめんごめん、ビールやなくて発泡酒や、と留美ちゃんが缶を二つ持ってきてくれた。

プシ、と音をさせてプルトップを開け、
初めて、ビールならぬ発泡酒に口をつける。

「にが。」

「子どもやな。」

そういう留美ちゃんも、一口飲んだだけで缶をテーブルに置いた。

「井上、知ってる?柔道部の。」

知ってる。
大きい熊みたいな、わたしなんかは廊下をすれ違うときにも肩をすくめてしまうような子だ。

わたしが黙っていると、
「美代子は直ちゃんみたいなのがタイプやもんなあ。」と笑った。


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