初恋
そんな感じで、4月はあっという間に過ぎていった。

この前来たばっかりやのに、帰ってこいってうるさいねん。
ほんまになあ。子離れしてほしいわ。

口ではえらそうに言うものの、
久しぶりに実家のごはんが食べられると思うと、
自然に口元が緩んでしまうわたしと留美ちゃんだった。

ゴールデンウィークは実家に帰る。

直ちゃんにそう伝えると、
帰省の途中に店に寄ってほしいと言う。
おばさんたちに、お菓子持っていってもらいたいなと思って。

直ちゃんってば。
母にまで気を使わなくていいのに。

はたして、帰省の当日、わたしたちはまだ午前中のうちに駅で待ち合わせて上りの電車に乗った。
直ちゃんのお店のある神戸駅で降りることは、前日のうちに承諾を得ている。

改札を出て海の方へ向かうと、大きな百貨店ある。
その向こう、外国の絵はがきなんかでよく見る、地中海地方のマンションみたいな
長方形の建物があって、そこにレストランや映画館、雑貨店など、いろいろな店舗が入っている。
直ちゃんの働いているお店はそこの一階だ。

一度母と来たことがあるので、その記憶だけが頼りだったんだけど、
そんなに迷うほどのこともなかった。

奥にあるカフェスペースでケーキとお茶を注文して、
言われたとおりに「三浦の知り合いです。」とウエイトレスさんに伝える。

ケーキを半分くらい食べ終わった頃、直ちゃんが奥から紙袋を持ってやってきた。

うー。
白いコックコートに長めのカフェエプロン。
もう、やっぱり格好いい。

レジのところでお金を払おうとすると、
「三浦からきいてますから。」と言って、受け取ってもらえなかった。

再び電車に乗って、今度はまっすぐに大阪に向かう。

三宮で人がたくさん降りたので、二人で並んで座ることができた。

「美代子、制服好きのおっさんの気持ちがわかったんちゃう?」

と、留美ちゃんが言って、

「うん。」と、思わず肯定してしまったわたしだった。
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