初恋
神戸に帰ってきて、わたしはアルバイトの面接をいくつか受けた。

居酒屋、喫茶店、ファーストフード、パン屋さん。
食べ物関係ばかりなのが我ながらおかしい。

結局、近所のパン屋さんで働くことが決まった。
土日も入れますか?と聞かれて、入れますと即答したのがよかったみたいだ。

直ちゃんの休みが水曜日だから、それ以外はバイトで過ごしても何の問題もなかった。

神戸にはおいしいパンを売る店が多い。

菓子パンばかりでなく、食事用のしっかりとしたパンの種類が豊富な店が多いのだ。
そういう店が、ちょっとした町角に普通に存在していて、
わたしにとってそれは神戸の誇らしいところのひとつだ。

わたしが働く店も、職人さんが焼いたパンを売る店で、
店の中にイートインのコーナーがあって、
お客さんが買ったパンをお店の中で食べられるようになっていた。

そこのお店では女の子はみんな制服を支給されている。

白い三角巾、黒い膝よりやや下まであるワンピースに白のエプロン。
靴は黒のもの、と指定されたから、
入学式にはいたものを使うことにした。

制服を着てみると、なかなか、自分で言うのも変だけどかわいくて、
まだ仕事なんてぜんぜんできないのにうきうきしながらお店にたった。

直ちゃんに見てもらいたいな。
でも、やっぱり恥ずかしいな。

仕事は、パンを並べたり、レジを打ったりすることなんだけど、
パンにはバーコードがついていないので、値段を覚えるのが一苦労だった。

5月の半ば、パンの値段と格闘している頃、
直ちゃんと映画に行くことになった。

久しぶりに電話をしていたら映画の話になって、
それが怖いことにりゅうさんも観たい映画だったらしい。

電話の向こうで「おれ、みーちゃんと行くー」と騒ぐ声がきこえて、
じゃあ3人で行こう、となったのだ。

りゅうさんには感謝してるけど、
腹痛でも起こせばいいのに、なんて考えた。
でも、神様はそんな勝手な願いをきいてくれるほどひまではなかったみたいだ。

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