初恋
映画はおもしろかった。

直ちゃんが隣に座ってくれたので、字幕を読むふりをして横顔を見るのが幸せだった。

トム・クルーズ主演のスパイ映画で、
けっこうはらはらさせる場面がある。
そんなところで直ちゃんのシャツをつかんでみたりして、
そしたら、直ちゃんが大丈夫、という風にこっちを向いてくれるのもうれしかった。

ああ、結局、映画よりも直ちゃんのことばかり気になってたみたいで、
チケット代を出してもらったのが申し訳ないくらいだ。

りゅうさんは、エンドロールが流れるなり外に出て、
「二時間はつらいわ。」と言いながらたばこを吸っている。

「それにしても、まあまあってとこやったな。」

主人公がピンチのとき、頭を抱えたりしてたくせに、なんだかえらそうだ。

「なんで?おもしろかったやん。」と直ちゃん。

「ありきたりすぎるわ。もともと話の筋は決まってるようなもんやしな。」

「それを観たがったのはお前やろ。
もう忘れたんか?まさかもうボケはじめたんか?」

「なおタン、介護してくれる?」

「…お前、最近ボケがワンパターンになってきたな。」

「…勉強するわ。」

まったく。
りゅうさんがいないといいなんて思ったけど、
二人の会話を聞いているのはおかしい。

わたしの記憶の中の直ちゃんは、いつも穏やかに笑ってる感じがするから、
こんなに子どもみたいに表情を変えるのを見るのは新鮮だ。

近づいて、いやになって、幻滅して、と留美ちゃんは言ったが、
そんなことにはならずにすむのかもしれない。

「おい、お前何にやにやしてるねん。
お子様のくせにやらしい想像してるんやないで。」

りゅうさんにそう言われたから、わたしはよほど楽しそうな顔をしていたのかもしれない。

「あほ、誰がするか。」

ほんと、油断も隙もないなあ。



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