初恋
まわりのお店はほとんど定休日の札を出していて、
しょうがないから、隣の百貨店でコーヒーを飲むことにした。

百貨店は二棟に分かれていて、
間の通路の上にはガラスの屋根がある。

一階には飲食店が並んでいて、街を散歩するみたいな気分を味わえる素敵な場所だ。

神戸はほんとうに、こういう小憎たらしい演出が上手である。

そこのファーストフード店でコーヒーを買って、
通路に出してあるテーブルに座った。

「ねえ、直ちゃん。クッキーめっちゃおいしかったってお母さんが言うとった。
また遊びにおいでって。」

母からことづかってきたお礼の言葉を言ってから、
気になっていた、直ちゃんの家族のことを聞いてみた。

「うち?みんな元気やで。」と、直ちゃんの答えは簡単なものだ。

「おばさんも?」

「うん。」

それきり話が続かなくなってしまう。

「みーちゃんはお姉さんいてるん?似てなかったら紹介して。」

それまで紙コップのコーヒーをまずそうにすすっていたりゅうさんが口をはさんだ。

「お兄ちゃんやったらおるけど。似てなくてごついから紹介したろか。」

「考えさせて。」

そういうりゅうさんだって、お母さんの話はきいたけど兄弟の話はきいたことがない。

「りゅうさんって一人っ子?」

「なんで?」

「だって、ずっと直ちゃんとおるみたいやから、家には帰らんのかなと思って。」

そんな誘導尋問(ってほどじゃないけど)に、引っかかりはしない彼である。

「なんや、やきもちやいてるんか。
おれだって帰りたいけど、なおがさみしがって泣くからなあ。」

「お前がたまにおらへんとめちゃくちゃせいせいするけど、
あれは気のせいなんか。」

「またそんな思ってもないこと言って。」

「いや、心から思ってることやで。信じてくれていい。」

またいつもの調子なので、つい、先日の話を思い出してしまった。

「なあ、二人って、付き合ってたりは、せえへんよね。」





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