初恋
「家族の人もみんな帰って来てはるん?」

「ううん。一人。」

「寂しくない?」

「うん。こっちは知り合いもおるし、オカンもその人がおれば安心やっていうから。」

後半はウソである。

母は直ちゃんを気に入って入るけど、
わたしの想いが一方的なものであることに気がついているはずだ。
直ちゃんがおれば安心やけど、
それは直ちゃんにはえらい迷惑やろうなあ、というのが母の真実の気持ちだと思う。

「親戚の人?」

「ううん。そうじゃないけど、」
と、わたしはグレープフルーツの味のお酒に口をつけた。

えへ、とわたしは、こういうときいつも笑ってしまう。
わたしの中では直ちゃんはやっぱり頼れる人だからだ。

「男やな。あー、もう、そうじゃないかと思ったけどさあ。」

「えー、じゃあ彼氏と住んでるんや。」

それは飛躍しすぎである。
現実になってもぜんぜん問題ないけど。

「違うよー。昔からの知り合いがおるってだけ。」

「美代ちゃん、もしかして、まだ三浦くんと仲いいの?」

ちょっとびっくりするくらいさめた声で、池田江里子ちゃんが言った。
江里子ちゃんは直ちゃんの近所に住んでいた子で、
小学校のとき、集団登校するときは同じ組だったはずである。

「あ、うん。まあ。」

その言い方に迫力があったので、適当な返事ができなかった。

「やめとき。美代ちゃん、ぜったいだまされとるって。」

え、なんのこと?という顔を、早坂さんと上野さんがした。

あとの二人は、あ、やば、と逃げ腰ながら、
その発言をとがめもせず、否定もしようとしない。

「どういうこと?」

わたしはまだ、その状況がつかめず、きょとんとするばかりだ。

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