初恋
「お兄ちゃんになるねんで。」と父に言われて、
それがどういうことなのかはあんまりわからなかったけど、
いいことであるのは確かみたいだったので、「やった!」と飛び跳ねてみせた。
そのとき、父がうれしそうに頭をなでてくれたのを覚えている。
章子さんは、今度は産休をとるつもりだったから、
毎日りゅうさんと一緒に家を出る生活を続けた。
何事にも弱音を吐かない母だった。
「ほんまに、おれも気が強いところがあるけど、あれには負けるわ。」と、
りゅうさんがあきれるように言う。
夜遅くまで会議や懇親会をこなし、
家でもずっと仕事をしていた章子さんは、ある日体調を崩して学校で倒れた。
りゅうさんは、祖母に連れられて病院へ行き、
そこで激しい口論をしている両親をみた。
弟か妹は、顔を見る前にどこかへ行ってしまったみたいだった。
すぐに退院した母はまた仕事に戻った。
普段と同じ生活が始まったが、
家の中は以前には表面化しなかった、ぎすぎすした雰囲気が漂うようになっていた。
父と祖母が仲良くなって、母が仲間はずれにされているように見えたから、
なるべく母のそばにいるようにしようと、幼い子どもは考えていた。
味方がいなくなった家から、母が仕事に出て行って
そのまま帰ってこなくなる夢をみたときは恐ろしくて仕方がなかった。
しばらくして、その夢は現実になる。
ただし、母は仕事に行く格好ではなく、
普段着に、大きなかばんを持っていったのが夢とは違っていた。
それから、父と祖母との生活が始まって、
とにかくはまた穏やかな日々が返ってきたように思われた。
ちなみに、りゅうさんが料理を始めたのは祖母の影響を受けてのことだ。
人間、食べるものがしっかりしとったら、たいていのことはうまくいく。
そういわれて育ち、台所に入ってもいやな顔をされなかった。
小さい子どもを邪魔者扱いせず、手伝いをさせてくれる祖母だった。
男でも女でも、自分が食べる分くらいは自分で作らな。
息子のしつけには失敗したから、りゅうちゃんにはいろいろ教えたろな。
きちんとしたものを食べることが生活の基本、という彼の人生哲学は、
祖母の薫陶を受けてはぐくまれたのだった。
それがどういうことなのかはあんまりわからなかったけど、
いいことであるのは確かみたいだったので、「やった!」と飛び跳ねてみせた。
そのとき、父がうれしそうに頭をなでてくれたのを覚えている。
章子さんは、今度は産休をとるつもりだったから、
毎日りゅうさんと一緒に家を出る生活を続けた。
何事にも弱音を吐かない母だった。
「ほんまに、おれも気が強いところがあるけど、あれには負けるわ。」と、
りゅうさんがあきれるように言う。
夜遅くまで会議や懇親会をこなし、
家でもずっと仕事をしていた章子さんは、ある日体調を崩して学校で倒れた。
りゅうさんは、祖母に連れられて病院へ行き、
そこで激しい口論をしている両親をみた。
弟か妹は、顔を見る前にどこかへ行ってしまったみたいだった。
すぐに退院した母はまた仕事に戻った。
普段と同じ生活が始まったが、
家の中は以前には表面化しなかった、ぎすぎすした雰囲気が漂うようになっていた。
父と祖母が仲良くなって、母が仲間はずれにされているように見えたから、
なるべく母のそばにいるようにしようと、幼い子どもは考えていた。
味方がいなくなった家から、母が仕事に出て行って
そのまま帰ってこなくなる夢をみたときは恐ろしくて仕方がなかった。
しばらくして、その夢は現実になる。
ただし、母は仕事に行く格好ではなく、
普段着に、大きなかばんを持っていったのが夢とは違っていた。
それから、父と祖母との生活が始まって、
とにかくはまた穏やかな日々が返ってきたように思われた。
ちなみに、りゅうさんが料理を始めたのは祖母の影響を受けてのことだ。
人間、食べるものがしっかりしとったら、たいていのことはうまくいく。
そういわれて育ち、台所に入ってもいやな顔をされなかった。
小さい子どもを邪魔者扱いせず、手伝いをさせてくれる祖母だった。
男でも女でも、自分が食べる分くらいは自分で作らな。
息子のしつけには失敗したから、りゅうちゃんにはいろいろ教えたろな。
きちんとしたものを食べることが生活の基本、という彼の人生哲学は、
祖母の薫陶を受けてはぐくまれたのだった。