初恋
春休みがあけて学校に行くと、
いつの間にか自分は、他人の女に手を出して、遊んで捨てた極悪人になっていた。

あれから彼女が、以前に付き合っていた男の子に泣きついたらしい。

ばかばかしいと思ったけど、言い訳をする気にはなれなかった。
いつだって、いやなことは周りからやってくる。
自分が抵抗したところで何もよくなりはしないと思うようになっていた。

みんなが見ている廊下で、自分より大柄なその男子生徒に殴られているときも、
早く終わらないかということばかり考えていた。

それがかえって、「かっこつけ」に見えたらしい。
目の敵にされて、靴を隠されたり、人のいないところで殴られたりするようになった。

別にたいしたことない。
どうせ自分なんか、どうでもいい人間なんだから。

そう、頭では納得したものの、
次第に学校に行くことができなくなってしまった。

母は、「どうしてこの子は普通のことができないんだろう。」と嘆いて、
誰かに電話で相談したりするしている。
その悲しい声を聞くことが一番つらかった。

電話の相手は、大阪に越していった伊藤さんだったみたいだ。
伊藤さんが呼んでくれたらしく、
「直人、大阪に遊びに行っておいで。」と母が言った時は
びっくりしたけどうれしかった。

大阪といっても、行ってみるとすごい田舎で、
そこのおじいちゃんと釣りなんかをしていると、
自分の悩みがどうでもいいことに思えてきた。

みーちゃんはまだ自分のことを慕ってくれているらしく、
にこにこしながらついてまわるので、
なんだかくすぐったいような、申し訳ないような気分になった。
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