初恋
「うそつく男はきらいや。」と言うと、
「失礼な奴やな。」と返ってきた。

「ほんまにお前はムードも何もないな。」と、りゅうさんがたばこに火をつけて、
いつもどおりの明るい口調に戻った。

「お前みたいな奴がずっとおったら、なおも少しは変わってたかもしれんな。」

ゆっくり一本を吸い終えると、りゅうさんはまた車を走らせ始めた。

「やっぱりわたし、直ちゃんが好きや。」と、独り言のように言う。

「みんな、なおばっかり好きなんやな。」と、前を向いたままりゅうさんが言った。

マンションのドアの前まで送ってくれて、
わたしがオートロックを解除していると、

「今日のことは内緒やで。なおに半殺しにされるからな。
続きがしたくなったらこっそりメールしてや。」と、この人らしい言い方をして、
直ちゃんには秘密にすることを約束した。

自分の部屋でベッドに寝転んで、
「キスってあんなもんか…。」とつぶやくとだんだん腹が立ってきて、
それでも、絶望感に押しつぶされながら眠るよりはましか、と思った。
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